CCAS試験対策ガイド:暗号資産の仕組みから金融犯罪対策の判断まで
Certified Cryptoasset AFC Specialist(CCAS)は、暗号資産に関わる金融犯罪リスクと対策を扱うACAMSの専門資格です。AML・金融犯罪対策、暗号資産コンプライアンス、ブロックチェーン分析、捜査、監督、デジタル資産リスクの担当者を想定しています。
ACAMSが案内する現行版の試験形式は100問、175分です。試験言語は現在、英語のみと案内されています。日本語の本ガイドは独立した学習資料であり、試験言語を示すものではありません。ACAMSは2026年11月19日に改訂版の教材・試験を提供すると予告しています。受験する版の形式と予約条件はACAMSのCCAS案内で確認してください。
学習範囲
- ウォレット、取引、スマートコントラクトなどの仕組みを説明する。
- FATF基準と適用される国内法を区別し、事業者の役割に応じて義務を特定する。
- オンチェーン分析を顧客資料、取引所記録、調査結果と照合し、相応の統制や対応を選ぶ。
学習範囲と本ガイドの配分
| 学習領域 | 本ガイドの重点 | 学習上の判断課題 |
|---|---|---|
| 暗号資産とブロックチェーン | 概念1〜18。本ガイドの学習配分の目安は30%。公式の出題比率ではありません。 | 取引の仕組みと観測できる事実を説明し、アドレスの帰属を早合点しない。 |
| 暗号資産とブロックチェーンのAML基礎 | 概念19〜36。本ガイドの学習配分の目安は30%。公式の出題比率ではありません。 | 事業者の役割、法域、商品、取引経路から適用される義務を特定する。 |
| 暗号資産のリスク管理プログラム | 概念37〜60。本ガイドの学習配分の目安は40%。公式の出題比率ではありません。 | オンチェーンとオフチェーンの証拠を統合し、調査、報告、統制改善を判断する。 |
60の重要概念 1-10
1. 公開台帳で見えるもの
暗号資産とブロックチェーン
公開ブロックチェーンでは、確定した取引の送受信先、数量、時刻の手掛かりを誰でも検証できる。一方、台帳の記録は通常、アドレスの管理者名や資金の目的を直接示さない。調査ではまず取引ハッシュ、対象チェーン、ブロック高を固定し、観測事実と推測を別々に記録する。顧客情報や取引所記録との照合によって、初めて帰属判断の根拠が強くなる。
適用例: 顧客の入金が不審なアドレスを経由していた。担当者は取引ハッシュと前後の移転を保存し、入金元の説明と取引所記録を照合してから判断した。
誤解しやすい点: 公開台帳に載る取引を、実名付きの銀行送金記録と同一視してはいけない。資金の経路が見えても、各アドレスの管理者は別途立証する必要がある。
2. アドレス、鍵、ウォレットの区別
暗号資産とブロックチェーン
アドレスは送受信に使う識別子、秘密鍵は資産を動かす署名権限、ウォレットは鍵や取引を管理する仕組みである。一つのウォレットが複数のアドレスを生成でき、同じ事業者が多数の顧客資産をまとめて管理する場合もある。調査では、アドレスの一致、署名権限、顧客口座の対応を別の問いとして扱う。共有保管や鍵の委託があれば、その管理体制も確かめる。
適用例: 顧客が新しい入金アドレスを提示した。担当者は過去のアドレスと違うだけで別人とはせず、取引所が口座ごとにアドレスを生成する仕様を確認した。
誤解しやすい点: アドレスを一人に一つの恒久的な口座番号と考えると、帰属を誤る。鍵の管理者とサービス利用者も異なり得るため、保管形態を確認する。
3. 取引の確定性とチェーン再編
暗号資産とブロックチェーン
取引の送信、ブロックへの取り込み、十分な確定は異なる段階である。チェーンによって合意方式や再編の可能性が異なり、画面に表示された未確定取引が最終的に同じ形で残るとは限らない。資金受入れや警戒判断では、対象チェーンの確定基準と自社の受入れ基準を照合する。調査記録には観測した時点と確定数を残し、後から状態を再検証できるようにする。
適用例: 高額入金の通知直後に顧客が出金を求めた。担当者は表示額だけで処理せず、対象チェーンの必要確定数と実際の状態を確認してから手続きを進めた。
誤解しやすい点: 取引ハッシュが発行された時点で決済完了とみなすのは早い。未確定や再編の可能性を無視すると、資産移転と監視記録の整合が崩れる。
4. UTXO型の資金追跡
暗号資産とブロックチェーン
UTXO型では、取引は未使用の出力を入力として消費し、新しい出力を作る。複数入力を一つの取引に使った事実は資金の集合を示すが、常に単一人物の支配を証明するわけではない。釣り銭出力の推定も、金額、スクリプト、既知のサービス運用を合わせて評価する。追跡図には入力と出力を分け、どの仮説をどの観測が支えるか明示する。
適用例: 二つの入力を持つ取引から顧客へ送金された。調査員は片方だけを資金源と決めず、両入力と釣り銭候補を示して残余リスクを説明した。
誤解しやすい点: 複数入力があれば必ず同じ所有者だと断定するのは危険である。共同取引やサービスの集約処理があり、推定規則の例外を確認する。
5. アカウント型と内部取引
暗号資産とブロックチェーン
アカウント型チェーンでは、残高の変化、トークンの移転イベント、スマートコントラクトの内部呼出しを分けて読む必要がある。表面上の送信先が契約アドレスでも、実際の受益先は実行ログに現れることがある。調査ではネイティブ資産の取引履歴だけで終わらせず、トークンイベントと契約実行結果を確認する。失敗した取引も手数料だけが動く場合がある。
適用例: 顧客が契約アドレスへ送金したように見えた。担当者は実行ログを確認し、交換後のトークンが別アドレスへ渡った経路まで追跡した。
誤解しやすい点: 取引一覧の最上位の送信先を最終受取人とみなすと、契約内の移転を見落とす。実行結果とイベントを読んで資金の到達先を確かめる。
6. 手数料と取引の順序
暗号資産とブロックチェーン
ネットワーク手数料は取引を処理する対価であり、送金額とは別に動く。混雑時には提示した手数料や優先順位が確認までの時間を左右し、取引が置き換えられる仕組みを持つチェーンもある。監視では時刻だけで経路を断定せず、ブロック内の順序、取引状態、関連ログを確認する。手数料の負担者も、顧客とサービスのどちらかを区別して記録する。
適用例: 二件の送金通知が逆順で確定した。調査員は通知時刻による資金経路を修正し、確定ブロックと取引の参照関係から順序を再構成した。
誤解しやすい点: 画面に並んだ順番が資金移転の順番だと決めつけると誤る。未確定の待機時間や置換を踏まえ、確定した台帳で検証する。
7. 取引所の内部台帳
暗号資産とブロックチェーン
取引所内での顧客間移転は、公開チェーンに一件ずつ記録されない場合がある。入金アドレスへの送金、取引所内の売買、共通ウォレットからの出金は異なる記録体系に属する。オンチェーン追跡で資金が取引所に到達したら、その先は口座履歴や注文記録の取得が必要になる。分析上のサービス帰属と、個別顧客への帰属を分けることが重要である。
適用例: 不正資金が大手取引所の入金アドレスに着いた。担当者は公開台帳だけで最終受益者を決めず、照会可能な取引所記録の範囲を整理した。
誤解しやすい点: 取引所の共通ウォレットからの出金を、直前の入金者の送金と直結してはいけない。内部台帳で資金が混在し、対応関係が変わり得る。
8. カストディと自己管理
暗号資産とブロックチェーン
カストディ型では事業者が秘密鍵または移転権限を管理し、自己管理型では利用者が直接権限を保持することが多い。ただし共同署名や委託管理では権限が分かれる。リスク評価では、誰が取引を開始でき、誰が停止でき、どの記録を提出できるかを確認する。ウォレットの画面表示だけで保管形態を判断せず、契約、技術構成、運用権限を突き合わせる。
適用例: 法人顧客が自己管理ウォレットと申告した。担当者は共同署名者に外部サービスが含まれると知り、出金承認権限と記録の保有者を確認した。
誤解しやすい点: 自己管理という名称だけで第三者リスクがないと考えるのは誤りである。署名者や復旧権限を持つ者が資金移転に関与し得る。
9. ステーブルコインの発行と償還
暗号資産とブロックチェーン
ステーブルコインでは、トークンの移転と発行者による発行・償還が異なる段階をなす。価格の安定をうたう仕組みも、準備資産型、暗号資産担保型などでリスクが変わる。調査ではチェーン上の移転だけでなく、発行者、償還窓口、凍結機能、関連する法定通貨の入出金を確認する。発行者に停止権限があっても、実行可能性と法的根拠は別途評価する。
適用例: 詐欺被害金がステーブルコインに交換された。担当者は移転先を追跡するとともに、発行者の凍結機能と償還先の記録を調べ、対応窓口を特定した。
誤解しやすい点: 価格が安定しているから金融犯罪リスクも低いという推論は成り立たない。移転速度や償還経路が、むしろ調査と統制の焦点になる。
10. スマートコントラクトの権限
暗号資産とブロックチェーン
スマートコントラクトはコードで処理を実行するが、管理者鍵、更新権限、一時停止機能が残る設計も多い。リスクを見る際は公開コードの有無だけでなく、誰が条件を変更でき、資産を移動できるかを確かめる。契約アドレスへの送金は、その運営者との直接取引を常に意味しない。実行ログ、権限設定、利用者の操作を合わせて取引の実態を把握する。
適用例: 顧客が分散型サービスを利用した。担当者は契約が更新可能で、管理者が資金移転を停止できることを確認し、運営関与の評価に反映した。
誤解しやすい点: コードが公開されているだけで管理者がいないと推測するのは危険である。更新鍵や停止権限を調べ、実際の支配構造を確認する。
60の重要概念 11-20
11. DeFiの取引経路
暗号資産とブロックチェーン
分散型金融では、利用者が交換、貸付、流動性提供を複数の契約で連続実行できる。一件の取引に見えても、内部では複数トークンと複数プールが動くことがある。追跡では各段階の入力資産、出力資産、受取アドレス、手数料を再構成する。サービスの名称から法的な事業者区分を即断せず、管理や仲介の実際の機能も確認する。
適用例: 不審な入金が分散型取引所を通過した。分析者は交換前後のトークン数量と受取アドレスを抽出し、別チェーンへの移転との接続を調べた。
誤解しやすい点: 交換契約に入った資金がそこで消えたと扱うと、追跡が途切れる。イベントと残高変化を読み、交換後の資産と受取先を特定する。
12. クロスチェーンブリッジ
暗号資産とブロックチェーン
ブリッジは一方のチェーンで資産をロックまたは消却し、別のチェーンで対応する資産を発行または解放する方式を取る。二つの台帳に同じ取引ハッシュがあるとは限らないため、メッセージ識別子、時刻、数量、契約ログで対応付ける。流動性プール方式では厳密な一対一の資金経路が得られない場合もある。その不確実性を明示して追跡結果を報告する。
適用例: 詐欺資金がブリッジ契約へ送られた。担当者は送信側の消却ログと受信側の発行記録を照合し、対応の確度を示して追跡を続けた。
誤解しやすい点: 同額の着金が近い時刻にあれば同じ資金だと断定してはいけない。ブリッジの方式と識別情報を確認し、複数候補を比較する。
13. NFTの移転と価格
暗号資産とブロックチェーン
NFTは一意の識別子を持つトークンだが、作品の権利、保管場所、市場価値はトークンの記録だけでは分からない。売買価格が大きく変動する場合、関連当事者間の取引や自己売買の可能性を検討する。調査では売り手と買い手の資金源、価格形成、手数料、実物や権利との関係を確認する。NFTという表示だけで、法令上の暗号資産や規制対象事業の該当性を決めない。
適用例: 新設ウォレット間で同じNFTが高値で往復した。担当者は価格の異常だけで結論を出さず、双方の資金源と関係を追い、取引目的を照会した。
誤解しやすい点: NFTの高額売買をすべて資金洗浄とみなすのは短絡的である。市場状況と当事者の関係を比較し、不自然さの根拠を具体化する。
14. トークンの承認権限
暗号資産とブロックチェーン
一部のチェーンでは、利用者が第三者の契約にトークン移転権限を事前承認する。承認は直ちに資金流出を意味しないが、広い上限や長い有効期間があれば、後の不正移転を可能にする。被害調査では承認取引、実際の移転命令、受取先を時系列で分ける。顧客が自ら署名した事実だけで、移転の意図や詐欺の有無を決めない。
適用例: 顧客が偽サイトで承認を与え、翌日トークンが流出した。調査員は承認と資金移転を別件として記録し、権限を使った契約を特定した。
誤解しやすい点: 承認取引を通常の送金と取り違えると、被害の開始時点を誤る。権限付与と実際の資産移転を分けて追跡する。
15. ミキサーの入出力
暗号資産とブロックチェーン
ミキサーは入金と出金の直接的な結び付きを弱めるため、通常の資金追跡より不確実性が高い。固定額、待機時間、手数料、利用者数によって候補集合が変わる。分析では特定の出金先を断定する前に、どの仮定で候補を絞ったかを記録する。利用自体は調査の重要な手掛かりだが、違法目的の証明には資金源や顧客行動など追加証拠が要る。
適用例: 顧客の入金にミキサー経由の履歴があった。担当者は一致し得る出金候補を示し、資金源の説明と入金時期を照合して追加調査を決めた。
誤解しやすい点: ミキサーへの接触を犯罪の確定証拠と扱ってはいけない。経路の確度と利用目的は別の論点であり、追加資料で評価する。
16. クラスタリングの証拠限界
暗号資産とブロックチェーン
クラスタリングは取引パターンから複数アドレスの共通管理を推定する方法で、本人確認そのものではない。共通入力、釣り銭、サービスの集約処理など各手法には前提と例外がある。ツールのラベルを使う際は根拠、更新日、信頼度を確認し、独立した取引所記録や顧客資料で補強する。報告では「推定された管理主体」と「確認された本人」を明確に区別する。
適用例: 分析ツールが三つのアドレスを同じ集団に分類した。調査員はラベルの根拠を点検し、顧客の出金記録と照合してから帰属の確度を記した。
誤解しやすい点: 同一クラスタを同一人物の身元証明とみなすと誤認につながる。分析上の関連性と法的・事実上の本人特定は別に検証する。
17. アドレス再利用とプライバシー
暗号資産とブロックチェーン
同じアドレスを繰り返し使うと取引間の関連性が見えやすくなるが、新しいアドレスへの変更は不正の兆候とは限らない。ウォレットが受取ごとにアドレスを生成することもある。監視設計ではアドレス単位に加え、顧客口座、端末、取引の連鎖を結び付ける。プライバシー上の選択と難読化行為を区別するには、資金の流れと顧客説明の整合を確かめる。
適用例: 顧客の入金元アドレスが毎回違った。担当者は回避行為と即断せず、使用ウォレットの仕様と入金時の署名記録を確認した。
誤解しやすい点: アドレスが増えたことだけをリスク上昇の証拠にしてはいけない。通常のウォレット動作と取引目的を比較する必要がある。
18. チェーン分析の再現性
暗号資産とブロックチェーン
分析結果は、チェーンの状態、ツールのラベル、採用した追跡規則で変わり得る。後から検証できるよう、取引ハッシュ、ブロック高、抽出日時、検索条件、ラベルの出典を残す。図の見た目だけでは経路の証拠にならない。分析者は、確定した取引、推定した関連性、取得できなかったオフチェーン記録を分けて説明し、別の担当者が同じ結論を検証できる形にする。
適用例: 二つの分析ツールが異なる帰属ラベルを示した。担当者は元の取引を照合し、各ラベルの根拠と更新日を記録して判断を保留した。
誤解しやすい点: ツールの画像だけを保存しても、調査条件が再現できない。元データと推定規則を残し、ラベル変更時に見直せるようにする。
19. FATF基準と国内法
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
FATF勧告は各国の金融犯罪対策を整える国際基準であり、個々の事業者への義務は通常、関連法域の法令や監督規則を通じて具体化される。したがって、取引の所在地、顧客、事業者の拠点、提供サービスを特定してから適用法を読む。FATF勧告を参照して管理水準を考える場合も、国内法の要件と社内の上乗せ基準を区別して記録する。
適用例: 海外顧客向けの送金機能を評価した。担当者はFATFの基準を確認した後、事業者の拠点と顧客所在地に関係する法令を別々に整理した。
誤解しやすい点: FATFの文章を全法域で直接適用される条文として扱うのは誤りである。義務の主体、発効日、国内での実施方法を確認する。
20. VASP該当性の機能分析
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
仮想資産サービス提供者に当たるかは、名称ではなく、他者のために交換、移転、保管などの対象活動を事業として行う実態で考える。ソフトウェアを公開するだけの者と、顧客取引を仲介・管理する者は同じではない。FATFの仮想資産ガイダンスを手掛かりに機能を整理し、最終的には関係法域の定義、登録・許可要件、監督上の解釈を確認する。
適用例: 分散型交換サービスの運営者が手数料と更新権限を持っていた。担当者は「分散型」という名称に依存せず、実際の仲介機能を整理した。
誤解しやすい点: DeFiという表示だけで規制対象外、または必ず規制対象と決めるのは誤りである。運営者の機能と現地法の定義を照合する。
60の重要概念 21-30
21. 商品ごとの規制範囲
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
同じ事業者でも、現物交換、カストディ、ステーブルコイン、NFT仲介では規制上の位置付けが異なり得る。トークンの呼称だけで結論を出さず、移転可能性、利用目的、償還権、サービスの提供方法を確認する。対象外と判断する場合も、どの定義要件に当たらないかを記録する。新機能を追加すると活動内容が変わるため、商品開始前と変更時の再評価が必要になる。
適用例: 取引所がNFTの売買機能を追加した。担当者は既存の暗号資産許可で足りると推測せず、商品の機能と運営形態を法域ごとに点検した。
誤解しやすい点: 「トークンなら同じ規則」と一括りにすると、対象外の商品にも過剰な義務を課し、対象商品には必要な統制を欠く。機能別に判定する。
22. トラベルルールの情報経路
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
トラベルルールは、対象となる資産移転に伴い送金人と受取人に関する情報を適切に取得・伝達する枠組みである。具体的な情報項目、閾値、送受信側の責任は法域と取引の範囲で変わる。ブロックチェーン上の送金だけでは必要な本人情報は伝わらないため、安全な別経路と相手方事業者の確認が要る。情報の欠落時に取引をどう扱うかも、適用法と手順に沿って決める。
適用例: 海外の事業者宛てに顧客が送金した。担当者はオンチェーンの宛先だけを記録せず、相手方の事業者性と必要な送金人・受取人情報を確認した。
誤解しやすい点: 一つの国の金額閾値を全世界に適用してはいけない。送金側、受取側、相手方事業者の法域と対象取引の定義を確認する。
23. EUの暗号資産移転情報
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
EUの移転情報規則は、対象となる暗号資産サービス提供者が関わる移転について情報の取得・伝達を求める。自己管理アドレスが関係する場合の評価も、送受信の方向や金額など具体的な条件を読む必要がある。EUの暗号資産移転規則を適用する前に、EUの事業者との接点と取引範囲を確かめる。制裁審査や本人確認は関連していても別の義務である。
適用例: EUのサービス提供者から自己管理アドレスへの出金があった。担当者は移転情報の要件と、該当する場合のアドレス管理確認を分けて点検した。
誤解しやすい点: 少額なら情報義務が一律に消えると考えるのは誤りである。基本情報の要件と追加確認の条件を条文に沿って区別する。
24. 自己管理アドレスとの取引
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
自己管理アドレスとの送受信では、相手方の事業者から本人情報を受け取れないことがある。それでも、顧客の本人確認、送金目的、アドレスの管理状況、取引履歴を使ってリスクを評価できる。署名による支配確認はアドレスの操作権を示すが、その人物の法的身元や資金の正当性までは証明しない。法定の確認要件と、自社が追加する統制を明確に分ける。
適用例: 顧客が新しい自己管理アドレスへの出金を希望した。担当者は署名確認に加え、送金目的と直近の入金源を確認し、記録を残した。
誤解しやすい点: 署名できる人が最終受益者だと即断してはいけない。代理操作や共有鍵の可能性があり、本人確認と資金源の評価は別に必要である。
25. EUのMiCAとAML規制
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
EUのMiCAは暗号資産とサービスに関する枠組みを定めるが、サービス提供の認可と金融犯罪対策の義務は別々に確認する必要がある。銀行などには一般的な新規認可と異なる経路もある。EUのMiCA規則を読む際は、トークン区分、提供サービス、事業者の既存資格、適用時期を特定する。過去の経過措置が現在も続いていると推測せず、当該国の現行の扱いを確認する。
適用例: EUで保管サービスを始める銀行があった。担当者はMiCA上の手続とAML統制を別々に確認し、既存の銀行資格による経路を検討した。
誤解しやすい点: MiCAの認可を得ればAML上の全義務も満たすという理解は誤りである。サービス認可、顧客管理、移転情報をそれぞれ確認する。
26. リスクに応じた本人確認
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
顧客確認では、法令上必要な本人・実質的支配者の情報と、商品や取引に応じた追加資料を区別する。低リスクなら許容される簡素化を検討できる法域もあるが、確認を全くしないこととは異なる。FATFの金融包摂指針は、排除を広げずにリスクに応じた方法を選ぶ考え方を示す。代替書類を使う際は、確認の信頼性と記録方法を説明できるようにする。
適用例: 通常の住所証明を出せない顧客がいた。担当者は一律拒否せず、適用法が認める代替資料を検討し、確認できた事実と残るリスクを記録した。
誤解しやすい点: 簡素化された確認を本人確認の免除と読み替えてはいけない。どの義務が残り、どの方法を変更できるかを法域ごとに確かめる。
27. 本人確認と認証の差
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
本人確認は顧客が誰かを確かめる工程であり、認証は既存の口座へアクセスする人が正当な利用者かを確かめる工程である。強い多要素認証を導入しても、顧客の身元や実質的支配者の確認が不要になるわけではない。NISTの認証指針は技術設計の参考になるが、金融機関のCDD義務そのものではない。口座乗っ取りの兆候は認証記録と取引行動を併せて調べる。
適用例: 高リスクの出金が強い認証を通過した。担当者は正当な顧客操作と断定せず、端末変更、受取先追加、顧客への連絡結果を照合した。
誤解しやすい点: 認証成功を身元確認や取引目的の証明とみなすのは誤りである。認証はアクセス権の検証であり、CDDと取引監視は別に必要となる。
28. 実質的支配者と暗号資産口座
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
法人顧客の実質的支配者を確認する目的は、法人名の背後で意思決定や利益を得る者を把握することにある。所有比率、支配手段、複雑な法人構造を対象法域の定義に沿って調べる。ウォレットの署名者や取引担当者が、必ずしも法人の実質的支配者とは限らない。顧客資料、登記、契約、統制権限を突き合わせ、情報の更新が必要な変化も監視する。
適用例: 法人顧客の送金は財務担当者が承認していた。担当者は署名者を実質的支配者とせず、株主構造と経営支配の資料を別に確認した。
誤解しやすい点: ウォレットの操作権を法人の所有権と同一視すると、支配者を見誤る。取引権限と法人支配の根拠を別々に集める。
29. 米国CDDの適用範囲
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
米国のCDD最終規則における法人顧客の実質的支配者確認は、対象となる金融機関と顧客の範囲を特定して読む必要がある。所有基準の25%以上と、別の支配責任者の確認を混同しない。FinCENのCDD最終規則は、暗号資産事業者すべてへ機械的に同じ閾値を当てる根拠にはならない。例外や現行の適用緩和も確認し、自社に適用される義務を文書化する。
適用例: 米国の関連会社が法人顧客を受け入れた。担当者は同社が対象金融機関かを確かめ、対象なら所有者と支配責任者の確認を分けて実施した。
誤解しやすい点: 米国CDDの25%基準を世界共通の実質的支配者基準にしてはいけない。法域、対象機関、顧客区分で要件が変わる。
30. 制裁の法域と取引接点
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
制裁審査では、誰が、どの資産を、どの法域との接点で扱うかを最初に整理する。米国、英国、EU、国連に関わる措置は適用範囲も禁止内容も同一ではない。アドレスのスクリーニング結果だけでは、取引当事者の身元や適用される禁止行為を確定できない。対象者、資産、サービス、決済経路を特定し、関連する法令と指定情報を照合して対応を決める。
適用例: 顧客の送金先が制裁対象と似た名称のサービスだった。担当者は名称だけで凍結せず、法人識別情報、所有関係、米国との取引接点を確認した。
誤解しやすい点: 一つの制裁リストで警告が出たら全法域で同じ措置が必要だと考えるのは誤りである。適用根拠と要求される行為を確かめる。
60の重要概念 31-40
31. 米国OFACの所有規則
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
米国OFACの50%ルールでは、複数のブロック対象者による直接・間接の所有を合算して評価する。単なる支配だけで50%未満の法人が自動的にブロック対象になるわけではないが、別の禁止があり得る。OFACの所有規則を使う場合は米国法の適用接点を示し、所有の連鎖を根拠資料でたどる。暗号資産アドレスのラベルだけで法人の所有関係を代用しない。
適用例: 送金先法人の株式を二人の指定者が保有していた。担当者は所有比率を合算し、米国接点と別の禁止措置を確認してから取引対応を決めた。
誤解しやすい点: 50%未満なら常に取引可能、または支配があれば必ず自動凍結と考えるのは誤りである。所有規則と他の禁止を区別する。
32. 英国の所有・支配分析
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
英国の金融制裁では、対象者本人だけでなく、対象者が所有または支配する法人への影響を検討する。支配の判断は米国OFACの自動ブロックの所有基準と同一ではない。英国OFSIの指針を使う際は、関連する英国規則、事実上の意思決定権、取引の英国接点を確かめる。分析結果を他法域へそのまま移植せず、必要な許可や報告の扱いも別途確認する。
適用例: 英国拠点の取引所が指定者と関係する法人から入金を受けた。担当者は株式比率に加え、役員選任権と実質的な指示関係を調べた。
誤解しやすい点: 米国の50%という数字だけで英国の支配判断を終えるのは誤りである。英国の法令と指針が求める支配の事実を検討する。
33. UNリストの一致判定
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
国連安保理の統合制裁リストは指定対象を確認する重要な一次資料だが、名前の一致だけでは本人と決められない。別名、生年月日、所在地、関連法人などを照合し、対象となる制裁制度と自国での実施措置を確認する。国連統合リストを検索した記録には、検索時点と照合に使った情報を残す。適用される資産凍結や報告の手続は、関係法域の規則に沿って判断する。
適用例: 顧客名が国連の指定者名と一致した。担当者は生年月日と関連先を照合し、真の一致かを判定したうえで国内の措置を確認した。
誤解しやすい点: 名前だけの一致を真の一致として処理すると、同姓同名の顧客に誤った措置を取る。識別情報と制度の適用を分けて確認する。
34. 前提犯罪と資金の性質
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
暗号資産を経由する資金は、詐欺、ランサムウェア、窃盗など多様な犯罪に由来し得る。資金洗浄の評価では、犯罪の手口そのものと、その収益を隠し移転する行為を区別する。チェーン上のラベルは前提犯罪の手掛かりになっても、顧客の認識や関与を自動的に証明しない。被害届、公開情報、取引所の記録、顧客説明を照合し、合理的な疑いの根拠を整理する。
適用例: 顧客の入金元がランサムウェア関連アドレスに近かった。調査員は直接・間接の距離を確認し、取引時期と顧客の資金源を照合した。
誤解しやすい点: 犯罪関連ラベルから一段離れた資金をすべて犯罪収益と断定してはいけない。経路、混在、時間、金額を評価する。
35. 詐欺の資金移動
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
詐欺では被害者が自ら送金操作を行う場合もあり、取引が有効に署名されていても被害は否定できない。典型的には、複数被害者からの集約、短時間での交換、別チェーンへの移転などが調査の手掛かりとなる。ただし各兆候は単独で犯罪を確定しない。顧客との通信、送金先の提示方法、被害申告、資金の流れを結び付けて、受取側の役割を検討する。
適用例: 高齢の顧客が投資担当者を名乗る相手の指示で送金した。担当者は署名済み取引でも詐欺の可能性を調べ、会話記録と送金先の集約状況を確認した。
誤解しやすい点: 本人が送金ボタンを押したから詐欺ではないという判断は誤りである。欺罔による指示と資金移動の経緯を確認する。
36. ランサムウェアの支払経路
暗号資産とブロックチェーンのAML基礎
ランサムウェア事案では、被害者からの支払、攻撃者の集約、交換や引出しを時系列で分けて追う。支払先アドレスの使い回しが少なくても、共通の集約先や交換パターンが見つかる場合がある。分析では被害申告や脅迫文に記されたアドレスを起点にし、公開ラベルの根拠も確かめる。制裁対象との関係や報告義務は、適用法域と事実関係に沿って別途判断する。
適用例: 企業が脅迫文に記載されたアドレスへ支払った。調査員は指定された額と取引を照合し、集約先と交換所への移転を記録した。
誤解しやすい点: 脅迫文のアドレスが一致しただけで攻撃者の実名まで特定したとはいえない。支払経路と人物の帰属は証拠を分けて示す。
37. 暗号資産固有のリスク評価
暗号資産のリスク管理プログラム
リスク評価では顧客、商品、チェーン、相手方、地域、送受信経路を組み合わせ、どこで犯罪収益や制裁対象との接点が生じるかを示す。総合点だけでは統制を設計しにくいため、各要因がどの危険を増減させるかを説明する。自己管理アドレスの利用も一律の結論にせず、用途と取引履歴で評価する。評価結果は監視条件、承認権限、見直し頻度に反映させる。
適用例: 法人顧客が複数チェーンで高頻度に交換した。担当者は取引額だけで高リスクとせず、相手方、業務目的、ブリッジ利用を分けて採点した。
誤解しやすい点: 一つの危険要因だけで全顧客を同じ分類にすると、重要な差が見えなくなる。要因の根拠と統制への影響を記録する。
38. リスク許容度と例外承認
暗号資産のリスク管理プログラム
リスク許容度は、どの顧客や取引を受け入れ、どの条件なら追加統制を求めるかの意思決定基準になる。高リスク取引を例外承認する際は、リスク要因、追加証拠、残余リスク、承認者、期限を記録する。例外が繰り返されるなら、個別承認だけで済ませず基準自体の妥当性を見直す。現場の迅速な判断と、経営側のリスク受容責任を分けて設計する。
適用例: 高リスク地域への送金を営業部門が急いだ。担当者は顧客の説明と受取先情報を集め、残余リスクを示して指定の承認者に判断を求めた。
誤解しやすい点: 「上席承認済み」という一行だけでは、何を受容したか後で検証できない。事実、条件、期限、再評価のきっかけを残す。
39. 顧客の事業目的の把握
暗号資産のリスク管理プログラム
暗号資産の顧客管理では、資金源に加え、なぜそのチェーンやサービスを使うのかを把握する。予定する取引額、頻度、相手方、換金方法を具体化すると、後の監視で期待行動との差を測れる。説明を受けた事実だけで十分とはせず、契約、請求書、取引所履歴などで裏付ける。新しい商品や取引先へ移った際は、当初の目的がなお妥当か再確認する。
適用例: 輸入業者が海外仕入先へのステーブルコイン決済を申告した。担当者は請求書、仕入先、決済頻度を確認し、監視の基準行動を設定した。
誤解しやすい点: 「投資目的」という広い説明だけでは異常取引を比較できない。商品、取引先、資金の出入りを具体的に記録する。
40. ウォレットの初期審査
暗号資産のリスク管理プログラム
新しいウォレットを登録する際は、アドレスの形式、対象チェーン、既知のリスク先との関係、顧客の管理権限を確認する。スクリーニングの結果は登録時点の情報に依存するため、継続利用中の再評価も必要になる。顧客が署名で管理を示せても、資金源や送金先の目的は別に確認する。審査条件はリスクに応じて変え、通常利用を不必要に止めないようにする。
適用例: 顧客が出金先ウォレットを追加した。担当者はチェーンとアドレスを検証し、既知の不正先との関連を調べ、必要な管理確認を行った。
誤解しやすい点: 一度登録したアドレスを永久に安全と扱うのは誤りである。新しいリスク情報や利用形態の変化を再評価する。
60の重要概念 41-50
41. スクリーニングの一致判定
暗号資産のリスク管理プログラム
スクリーニングは警告候補を出す工程であり、警告そのものが制裁違反や犯罪の確定ではない。アドレスの完全一致、間接的な資金接触、氏名の類似では証拠の意味が違う。調査員は一致の種類、情報源、更新時刻、取引との距離を確認し、誤検知を説明できるようにする。真の一致なら、適用法域の凍結、拒否、報告の要件に沿って措置を決める。
適用例: 送金先に制裁警告が出たが、根拠は二段前の取引だった。担当者は中間取引とラベルの出典を調べ、直接一致とは区別して評価した。
誤解しやすい点: 警告画面の色だけで凍結や解除を決めてはいけない。一致の根拠と適用される禁止内容を確認する。
42. オンチェーンとオフチェーンの統合
暗号資産のリスク管理プログラム
オンチェーン分析は資金の経路を示すが、取引の目的や顧客の実名に関する証拠は限られる。顧客申告、銀行入出金、端末ログ、注文記録、外部照会を同じ時系列に置くと、説明の整合性を検証できる。食い違いがあれば、どの記録が一次資料で、どの情報が推定かを確認する。証拠を統合しても不明点が残る場合は、その範囲を判断書に明記する。
適用例: 顧客は自分の別口座からの入金と説明した。担当者はチェーン上の経路と取引所の出金記録、顧客口座の名義を照合した。
誤解しやすい点: 資金経路の一致だけで本人や取引目的を証明したと考えるのは誤りである。オフチェーン記録との対応を確認する。
43. 監視シナリオの設計
暗号資産のリスク管理プログラム
監視シナリオは、検出したい行動、必要なデータ、閾値、例外、調査手順を一組で設計する。例えば短時間の多数入金は、販売事業者には通常で、個人顧客には異常かもしれない。顧客区分と期待行動を反映させ、単なる取引額の超過だけに依存しない。運用後は真の問題発見率、見逃し、処理負荷を測り、理由を残して条件を調整する。
適用例: 個人顧客の多数入金を検知する規則が事業者口座で大量に警告を出した。担当者は顧客区分別の基準を設け、過去事例で検証した。
誤解しやすい点: 警告数が多いほど統制が強いとはいえない。調査可能な量と検出したいリスクを両立させ、見逃しも点検する。
44. 間接的な高リスク露出
暗号資産のリスク管理プログラム
高リスクアドレスから数段離れた資金への接触は、距離だけでは評価できない。途中に取引所の共通ウォレットや流動性プールがあれば、無関係な資金が混在し、経路上の「汚染率」だけでは顧客との関係を示せない。送金額の比率、移動時刻、取引経路、アドレス分類の根拠を確認し、直接受領と間接受領を分けて記録する。疑わしさを判断する際は、オンチェーンの経路に入出金記録や顧客の取引目的を照合し、適用法令と自社の調査基準に従って追加調査の要否を決める。
適用例: 顧客の入金は三段前で詐欺関連アドレスと接していた。中間に大規模取引所の共通ウォレットがあり、同じ経路を通る多数の入金も確認された。調査員は金額と時刻を照合し、警告を保留して取引所での移動記録を求めた。
誤解しやすい点: 数段以内の接触を理由に入金全額を不正資金と断定するのは誤り。共通ウォレットでは資金が混在し、経路だけで帰属は確定しない。一方、距離が遠いだけで警告を消すのも早計で、時刻や金額が連続する経路は調べる。
45. チェーンホッピングの評価
暗号資産のリスク管理プログラム
資金が複数チェーンを移動すると、追跡対象の資産名と取引識別子が変わる。各ブリッジの仕組みを調べ、移転前後の数量、手数料、時間、受取アドレスを対応付ける。連続したチェーン変更は難読化の可能性を示すが、価格差や手数料を理由とする通常取引もある。顧客の目的と経路の複雑さを比較し、説明できない部分を具体的な調査課題にする。
適用例: 顧客の資金が二つのブリッジを経て取引所へ戻った。担当者は各移転を対応付け、顧客が説明した裁定取引の記録と比較した。
誤解しやすい点: チェーン変更の回数だけで疑わしい取引と決めてはいけない。移転の目的、費用、交換履歴を照合する。
46. 不審な取引パターンの組合せ
暗号資産のリスク管理プログラム
短時間の入出金、小口分割、交換の反復、ミキサー利用は、それぞれ正当な理由もあり得る。複数の兆候が顧客の事業内容や資金源の説明とどう食い違うかが重要である。監視では単一の点数を結論にせず、時系列で行動の組合せを示す。例外に見える行動が継続するなら、顧客情報の更新や監視条件の再設計につなげる。
適用例: 顧客が入金直後に小口へ分け、別チェーンで換金した。担当者は各行為を列挙し、申告した給与収入との不整合を確認した。
誤解しやすい点: 一つの兆候があるだけで報告対象と断定すると誤る。行動の連鎖と顧客背景を比較し、疑いの根拠を具体化する。
47. アラートの優先順位
暗号資産のリスク管理プログラム
アラートの優先順位は、潜在的な損害、制裁や資産流出の切迫性、証拠の確度、対応期限で決める。同じ取引額でも、直接の指定先一致と遠い間接露出では緊急度が異なる。処理順を決める規則は、担当者の裁量範囲と緊急連絡先まで明確にする。重大な新情報が出たら順位を上げ、判断理由と時刻を記録して引継ぎ可能にする。
適用例: 高額の間接露出と少額の直接制裁一致が同時に出た。担当者は直接一致の確認を先に進め、保留措置の期限を管理した。
誤解しやすい点: 金額だけで先着順に処理すると、急ぐべき法的措置を遅らせる。確度、切迫性、期限を併せて優先順位を決める。
48. アラート調査の仮説
暗号資産のリスク管理プログラム
調査を始める際は、何を確かめれば警告を解消できるか、反対に何が見つかれば深刻化するかを仮説として書く。例えばミキサー露出なら、直接入金か間接接触か、顧客の資金源と時期が合うかを検証する。仮説ごとに必要な資料と取得先を決めると、漫然とした追跡を避けられる。結果が仮説に反した場合も、その事実を記録して結論を修正する。
適用例: ミキサー関連の入金警告が出た。調査員は経路の確度、顧客の資金源、入金前後の換金行動を検証項目にして資料を集めた。
誤解しやすい点: 最初のツール表示を結論として調査を組み立てると、反証を見落とす。別の説明が成り立つ条件も先に定める。
49. 証拠の保全と取得履歴
暗号資産のリスク管理プログラム
調査資料には取得元、取得日時、担当者、保存形式、後の変更履歴を残す。公開台帳の記録は再取得できても、ウェブ表示や外部ラベル、顧客との会話は変わり得る。元データを保全したうえで分析用の写しを作り、重要な判断がどの版の資料に依拠したか分かるようにする。法執行機関へ渡す可能性がある場合は、証拠の連続性とアクセス権限も管理する。
適用例: 外部分析サービスがアドレスのラベルを変更した。担当者は初回取得時の画面と根拠、変更後の情報を別々に保存し、判断の見直し理由を記した。
誤解しやすい点: 最新の画面を上書き保存すると、当時の判断根拠が失われる。取得時点と変更履歴を残す必要がある。
50. 顧客照会の設計
暗号資産のリスク管理プログラム
顧客への照会は、既に分かっている事実と確認したい不明点を分けて設計する。資金源、相手方との関係、使用したサービス、取引の目的について、確認可能な資料を具体的に求める。警告の詳細を不必要に伝えると調査や法定手続に影響し得るため、伝達内容は適用法と社内手順に沿って調整する。回答の一貫性を既存の取引記録と比較し、矛盾があれば追加確認する。
適用例: 顧客が「自分のウォレットからの入金」と答えた。担当者は元の購入記録と移転履歴を求め、取引時期と金額の一致を確認した。
誤解しやすい点: 曖昧な質問への曖昧な回答を証拠として扱うのは危険である。検証できる日付、金額、相手方、資料を求める。
60の重要概念 51-60
51. 凍結、拒否、保留の区別
暗号資産のリスク管理プログラム
凍結、取引拒否、一時的な保留は、資産の扱いと法的根拠が異なる。制裁の真の一致が疑われる場合も、どの法域の禁止が適用され、どの措置が必要かを確認する。自社のリスク基準による保留と法定の凍結を同じ用語で記録すると、報告や解除の手続を誤る。意思決定者、判断時刻、顧客への通知可否、解除条件を明確にして迅速に対応する。
適用例: 出金先に制裁警告が出た。担当者は送金を一時保留し、真の一致と適用法を確認した後、必要な資産措置と報告を決めた。
誤解しやすい点: 警告が出た瞬間に法定凍結が成立するとみなすのは誤りである。一致判定と法的根拠を確認し、措置を区別する。
52. 疑わしい取引の報告判断
暗号資産のリスク管理プログラム
疑わしい取引の報告は、単一の指標やツールの点数で自動的に決めるものではない。対象事業者、法域、適用される報告基準と期限を確認し、顧客情報、資金経路、説明の不整合を総合する。犯罪を立証し切ることと、報告に必要な疑いを形成することも異なる。報告しない場合も重要な反証と判断理由を記録し、新情報が出た際に見直せるようにする。
適用例: 顧客の入金に詐欺関連の経路と虚偽の資金源説明が重なった。担当者は適用法の報告基準に照らし、根拠と未確認点を整理した。
誤解しやすい点: 犯罪の確定判決がないから報告できないと考えるのは誤りである。適用法が定める疑いの基準と得られた事実を評価する。
53. 報告書の事実と推定
暗号資産のリスク管理プログラム
報告書では、確定した取引、顧客から得た説明、分析上の推定を読み手が区別できるように書く。取引ハッシュ、チェーン、数量、時刻、関連アドレスを示し、クラスタの帰属には根拠と限界を添える。長い追跡図だけで意味が伝わるとは限らないため、何が不審で、どの資金がどこへ動いたかを文章で説明する。後日訂正が必要になった場合の履歴も保つ。
適用例: 調査員は報告書に「指定先へ送金」と書く前に、直接一致ではなく推定クラスタへの間接露出だったと修正し、根拠を示した。
誤解しやすい点: 推定ラベルを確定した身元として書くと、受け手の判断を誤らせる。観測事実と分析上の評価を明示する。
54. 記録保持とアクセス管理
暗号資産のリスク管理プログラム
顧客確認、取引、アラート、調査、報告に関する記録は、適用法の保持期間と自社の保存基準に沿って管理する。公開台帳で取引を再検索できても、顧客との対応や当時のリスク判断までは復元できない。個人情報を含む資料は、必要な担当者だけが閲覧できるよう権限を設定する。保管場所、削除時期、外部提供の履歴を定め、調査の再現性と情報保護を両立させる。
適用例: 過去のアラートを再調査した。担当者は当時の顧客回答、分析条件、承認記録を取り出し、新しいラベル情報との違いを確認した。
誤解しやすい点: 台帳が永久に残るから社内記録は不要という考えは誤りである。顧客資料や判断過程は台帳に載らない。
55. 分析ツールの検証
暗号資産のリスク管理プログラム
分析ツールを導入する際は、対応チェーン、ラベルの出典、更新頻度、追跡規則、誤検知の扱いを検証する。既知の事例で結果を比較し、同じ入力から調査員がどのように判断へ進むかも確認する。ベンダーのリスク点数は自社のリスク許容度を代替しない。モデルやラベルが変わった際の再検証条件を決め、重要な判断には元取引へ戻れる経路を残す。
適用例: 新しい分析ツールが既存案件を低リスクと表示した。担当者は対応していないチェーンが経路に含まれると分かり、導入条件を修正した。
誤解しやすい点: 高価なツールなら網羅的だと考えるのは誤りである。対象チェーン、データ欠落、ラベルの確度を実例で試す。
56. 監視統制の有効性検証
暗号資産のリスク管理プログラム
統制検証では、規則が存在するかだけでなく、対象取引を実際に取り込み、警告し、期限内に調査へ渡したかを確認する。代表的な取引と過去の見逃し事例を使い、データ欠落や設定変更の影響を試す。問題が見つかれば原因、影響期間、再処理範囲、是正責任者を定める。監視結果が良好でも、商品やチェーンの追加後には改めて対象範囲を点検する。
適用例: 新チェーンの入金が監視対象から漏れていた。検証担当者は開始日からの取引を再抽出し、影響案件を調査して設定の是正を確認した。
誤解しやすい点: 手順書があるだけで統制が機能しているとはいえない。実データが検知から判断まで流れた証拠を確かめる。
57. 経営報告と指標
暗号資産のリスク管理プログラム
経営報告では警告件数だけでなく、重大案件の種類、調査の遅延、誤検知、データ欠落、未解決の統制問題を示す。数値の増減は取引量や規則変更の影響を受けるため、分母と変更点を添える。経営側が資源配分やリスク許容度を判断できるよう、事例と傾向を結び付ける。未解決の高リスク問題には担当者と期限を付け、次回報告で進捗を追う。
適用例: 警告件数が半減した。担当者は改善と即断せず、取引量、閾値変更、新チェーンの取り込み状況を併記して経営会議に報告した。
誤解しやすい点: 警告減少を常に統制改善と読むのは誤りである。対象データの欠落や閾値緩和でも同じ現象が起こる。
58. 外部委託先の監督
暗号資産のリスク管理プログラム
保管、分析、本人確認を外部に委託しても、委託元は自社に適用される義務と判断責任を把握する必要がある。契約にはサービス範囲、データの取得方法、障害時の連絡、監査可能性、記録の返却を定める。委託先のラベルや審査結果を利用する場合は、自社のリスク基準との違いを確認する。障害時に代替手順で重要取引を扱えるかも試しておく。
適用例: 分析ベンダーが数時間停止した。担当者は事前に定めた高リスク出金の保留と手動確認を使い、復旧後に未審査取引を再処理した。
誤解しやすい点: 委託契約があるから自社の監視責任は消えるという理解は誤りである。成果物の品質と障害対応を検証する。
59. インシデント対応と金融犯罪調査
暗号資産のリスク管理プログラム
秘密鍵の漏えいや口座乗っ取りでは、技術的な封じ込めと金融犯罪調査を並行して進める。権限停止、資産移動の可否、ログ保全、顧客連絡、法定報告の要否を担当者別に整理する。NISTのインシデント対応指針は技術上の参考になるが、金融機関の報告期限を直接定めるものではない。復旧後は流出経路と認証・承認統制の弱点を見直す。
適用例: 管理鍵の不正利用が疑われた。担当者は契約の停止可能性を確認しつつ、署名ログと資金移転を保全し、関連する報告義務を法務と点検した。
誤解しやすい点: 資産を止めたから調査は終了という考えは誤りである。侵入経路、影響した顧客、証拠、報告義務を別々に確認する。
60. 事後検証と統制の更新
暗号資産のリスク管理プログラム
重大案件の終了後は、発見までの時間、見逃した信号、判断の遅れ、証拠の不足を振り返る。個人のミスだけに帰さず、データ連携、承認基準、訓練、委託先との連絡に改善点がないか調べる。是正策には責任者、期限、再検証方法を付け、同種の取引で実際に働くか確認する。新しいチェーンや犯罪手口への対応は、この検証結果をリスク評価へ戻して進める。
適用例: 詐欺資金の出金を見逃した事案で、担当者は遅延の原因が警告の優先順位にあると特定し、基準を修正して過去案件で再検証した。
誤解しやすい点: 研修を一回実施しただけで再発防止が完了したとはいえない。変更した統制が同種の事例を検知するか、実データで確かめる。
6回の学習計画
参照資料
試験形式と資格の範囲はACAMSの公開案内に基づきます。規制上の判断は、参照した国際基準や各法域の公的資料に加え、適用時点の法令で確認してください。
- ACAMS CCAS Certification
- FATF Recommendations
- OFAC: Entities Owned by Blocked Persons (50 Percent Rule)
- OFAC: A Framework for Compliance Commitments
- FATF: Risk-Based Approach to Virtual Assets and VASPs
- NIST SP 800-63B-4: Authentication and Authenticator Management
- FinCEN Legal Authorities and Bank Secrecy Act framework
- EU Regulation 2024/1624 (AMLR), official text
- FATF 2025 financial inclusion and proportionate AML/CFT guidance
- NIST SP 800-63A-4: Identity Proofing and Enrollment
- UK OFSI financial sanctions general guidance
- UN Security Council consolidated sanctions list
- Council of the EU: restrictive measures and sanctions
- NIST SP 800-61 Revision 3: Cybersecurity Incident Response
- FinCEN: current Beneficial Ownership Information reporting
- FinCEN: Customer Due Diligence Final Rule
- FinCEN FIN-2026-R001: beneficial-owner verification exceptive relief
- EU Regulation 2023/1114: Markets in Crypto-assets (MiCA)
- EU Regulation 2023/1113: information accompanying transfers